独立行政法人国立病院機構指宿医療センター

月アーカイブ: 4月 2012

指宿 菜の花通信(No.32)「田舎医者の流儀(7)・・・困った患者」

長年医者をやっているといろんな患者さんに遭遇する。殆どの方とは良好な関係を築ける。患者さんが診察室に入ってくる「今日はどうですか、苦しいところはなかですか」と優しい気持ち、表情で話しかける。一般に、患者さんはお医者さんには話しにくいようだ。そこでこちらが上から目線になったら、なお話しにくくなる。同じ目線で、対等な人として接するなら、何でも話してもらえる。特殊なテクニックとしての接遇があるのではなく、単に対等な人として接すればよいだけの話だ。しかし、中には困った、こちらの気持ちが通じない患者さんもいる。そんな困った方にはこちらも毅然たる態度をとらざるをえない。

病棟看護師長が困り果てて、相談に来た。「28歳の女性患者さんですけど、胸が苦しいと言って救急車で入院してきた。1週間の間いろいろ検査したけど、異常が見つからない」「主治医が退院を勧めても、俺は(この女性患者の言葉)苦しいのに治しもしないで、追い出すのか」「病室で腕の注射跡を見せて、昔、ヤク(薬)をやっていた」「看護師を呼びつけてあれをしろ、これをしろと本来業務に支障をきたしている」等々、言いたい放題、やりたい放題である。周りの患者さん達がいやがって、4人部屋を一人で占拠、病棟運営にも支障をきたしているという。

看護師長は私にその患者と話して、退院を促して欲しいようだった。ところで、そんな理の通じない患者と交渉するには「武器」が必要だ。「師長、この患者は主治医の言っている事は聞いているのか」「主治医や看護師の言う事は聞きません」「例えば」「今朝もベランダで禁じられているタバコを吸っていて、注意しても聞き入れませんでした」。それだけ解れば十分だ。その患者を別室に呼んで、主治医、師長立ち会いの下で、話を始めた。

「あなたの症状を聞き、主治医は必要な検査をしてきましたが、異常はないようです」「俺は苦しいのにどうもないとは、おかしい」「必要な検査も終わり、器質的疾患はないようです。退院していいです」「治しもしないで追い出すのか」「あなたは今朝、禁じられたベランダで喫煙していた。療養規則を守っていない。そんな方を入院させておくわけにはいかない」「お前達は治しもしないで追い出すなら、わしは入院費を払わない」「そうですか、それなら私達はしかるべき手続きをとります」「それは俺を警察に訴えるということか」「そんなことは言っておりません。しかるべきと言いました」。

警察をにおわすこちらの発言を聞いたとたんに、この患者は落ち着かなくなり、その日のうちに入院費も払わず、退院した。もちろんその後入院費を払うことはなかった。よくある話だ。こうした事態が起きたら「現場」のみに任せず、「上」も一緒になり解決する努力が大切だ。

平成24年4月25日

 国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦

指宿 菜の花通信(No.31)「田舎医者の流儀(6)・・・ムンテラ」

医師が患者さんや家族に病状や治療方針について説明することをムンテラ(MundTherapie)と呼んでいる。インターネットで調べるとあまり良い意味では使われていないような記述もある。患者さんに解るように説明するのがムンテラだが、意を尽くして説明をしても理解して頂けないことも稀ではない。理解して頂いていない場合、若先生方に「お前の説明が不十分だからだ」言うとたいてい「説明しましたよ」とムクレル事が多い。しかし、相手に理解して頂けなかったら、解るような説明をしなかった事に問題があると敢えて言っている。

検査して病気が見つかれば、それを説明(ムンテラ)することはそれほど難しい事ではない。例えば、「胸に締め付ける痛み」があると来た患者さんに必要な診察・検査を行い、心筋(心臓の筋肉)虚血を示す所見があると「狭心症」の疑いが強くなる。狭心症の病態、今後必要な検査を説明する。検査で心筋虚血の原因として冠動脈狭窄が証明されたら、いくつかの治療法を説明する。合併症など慎重に検討、粛々と治療に取り掛かっていく。それぞれの段階でムンテラが行われる。

いろいろの訴えのある患者さんに種々検査して器質的疾患がない場合、逆に難しい事もある。多くの場合、丁寧な説明をすれば納得して頂ける。しかし中には「こんなに苦しいのに何もないとはおかしい」と不満を訴える方もいる。「何もないですよ」ということはなかなか難しい、人の体は複雑なので全部絶対大丈夫かと言えばそれほど簡単ではない。そこで、こちらがあいまいさを感じさせる説明をすると、そういう患者さんは納得せず、ドクターショッピングに追いやってしまう。医師としての経験と知識が試されることになる。

外科の患者さんが重症で次々に治療の難しい事態が発生し、主治医が懸命の治療を行うも改善しない。患者さんの娘さんは医療関係者、母親の病気を心配し、毎日、土・日曜も説明を求めた。それも自分の勤務の都合で午後7時からである。主治医は土・日曜も出てきて、希望される午後7時に説明を行った。不幸にして患者さんが亡くなった、娘さんは「治療過程に不満がある、十分な説明を受けなかった」と言い出した。私は報告を聞き、主治医が自分の生活、家族を犠牲にし、懸命の診療をしていることを知っていたので、悔しい思いをさせられた。事情を知らない人が一方的な意見を聞いたらなんと酷い主治医だと思うかもしれない。

「ムンテラ」、この時代、患者さん、家族の状況を配慮しながらも、できるだけありのままに隠しだてしないで説明し、カルテに記載するようにしている。

平成24年4月10日

 国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦

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指宿 菜の花通信(No.32)「田舎医者の流儀(7)・・・困った患者」

長年医者をやっているといろんな患者さんに遭遇する。殆どの方とは良好な関係を築ける。患者さんが診察室に入ってくる「今日はどうですか、苦しいところはなかですか」と優しい気持ち、表情で話しかける。一般に、患者さんはお医者さんには話しにくいようだ。そこでこちらが上から目線になったら、なお話しにくくなる。同じ目線で、対等な人として接するなら、何でも話してもらえる。特殊なテクニックとしての接遇があるのではなく、単に対等な人として接すればよいだけの話だ。しかし、中には困った、こちらの気持ちが通じない患者さんもいる。そんな困った方にはこちらも毅然たる態度をとらざるをえない。

病棟看護師長が困り果てて、相談に来た。「28歳の女性患者さんですけど、胸が苦しいと言って救急車で入院してきた。1週間の間いろいろ検査したけど、異常が見つからない」「主治医が退院を勧めても、俺は(この女性患者の言葉)苦しいのに治しもしないで、追い出すのか」「病室で腕の注射跡を見せて、昔、ヤク(薬)をやっていた」「看護師を呼びつけてあれをしろ、これをしろと本来業務に支障をきたしている」等々、言いたい放題、やりたい放題である。周りの患者さん達がいやがって、4人部屋を一人で占拠、病棟運営にも支障をきたしているという。

看護師長は私にその患者と話して、退院を促して欲しいようだった。ところで、そんな理の通じない患者と交渉するには「武器」が必要だ。「師長、この患者は主治医の言っている事は聞いているのか」「主治医や看護師の言う事は聞きません」「例えば」「今朝もベランダで禁じられているタバコを吸っていて、注意しても聞き入れませんでした」。それだけ解れば十分だ。その患者を別室に呼んで、主治医、師長立ち会いの下で、話を始めた。

「あなたの症状を聞き、主治医は必要な検査をしてきましたが、異常はないようです」「俺は苦しいのにどうもないとは、おかしい」「必要な検査も終わり、器質的疾患はないようです。退院していいです」「治しもしないで追い出すのか」「あなたは今朝、禁じられたベランダで喫煙していた。療養規則を守っていない。そんな方を入院させておくわけにはいかない」「お前達は治しもしないで追い出すなら、わしは入院費を払わない」「そうですか、それなら私達はしかるべき手続きをとります」「それは俺を警察に訴えるということか」「そんなことは言っておりません。しかるべきと言いました」。

警察をにおわすこちらの発言を聞いたとたんに、この患者は落ち着かなくなり、その日のうちに入院費も払わず、退院した。もちろんその後入院費を払うことはなかった。よくある話だ。こうした事態が起きたら「現場」のみに任せず、「上」も一緒になり解決する努力が大切だ。

平成24年4月25日

 国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦

指宿 菜の花通信(No.31)「田舎医者の流儀(6)・・・ムンテラ」

医師が患者さんや家族に病状や治療方針について説明することをムンテラ(MundTherapie)と呼んでいる。インターネットで調べるとあまり良い意味では使われていないような記述もある。患者さんに解るように説明するのがムンテラだが、意を尽くして説明をしても理解して頂けないことも稀ではない。理解して頂いていない場合、若先生方に「お前の説明が不十分だからだ」言うとたいてい「説明しましたよ」とムクレル事が多い。しかし、相手に理解して頂けなかったら、解るような説明をしなかった事に問題があると敢えて言っている。

検査して病気が見つかれば、それを説明(ムンテラ)することはそれほど難しい事ではない。例えば、「胸に締め付ける痛み」があると来た患者さんに必要な診察・検査を行い、心筋(心臓の筋肉)虚血を示す所見があると「狭心症」の疑いが強くなる。狭心症の病態、今後必要な検査を説明する。検査で心筋虚血の原因として冠動脈狭窄が証明されたら、いくつかの治療法を説明する。合併症など慎重に検討、粛々と治療に取り掛かっていく。それぞれの段階でムンテラが行われる。

いろいろの訴えのある患者さんに種々検査して器質的疾患がない場合、逆に難しい事もある。多くの場合、丁寧な説明をすれば納得して頂ける。しかし中には「こんなに苦しいのに何もないとはおかしい」と不満を訴える方もいる。「何もないですよ」ということはなかなか難しい、人の体は複雑なので全部絶対大丈夫かと言えばそれほど簡単ではない。そこで、こちらがあいまいさを感じさせる説明をすると、そういう患者さんは納得せず、ドクターショッピングに追いやってしまう。医師としての経験と知識が試されることになる。

外科の患者さんが重症で次々に治療の難しい事態が発生し、主治医が懸命の治療を行うも改善しない。患者さんの娘さんは医療関係者、母親の病気を心配し、毎日、土・日曜も説明を求めた。それも自分の勤務の都合で午後7時からである。主治医は土・日曜も出てきて、希望される午後7時に説明を行った。不幸にして患者さんが亡くなった、娘さんは「治療過程に不満がある、十分な説明を受けなかった」と言い出した。私は報告を聞き、主治医が自分の生活、家族を犠牲にし、懸命の診療をしていることを知っていたので、悔しい思いをさせられた。事情を知らない人が一方的な意見を聞いたらなんと酷い主治医だと思うかもしれない。

「ムンテラ」、この時代、患者さん、家族の状況を配慮しながらも、できるだけありのままに隠しだてしないで説明し、カルテに記載するようにしている。

平成24年4月10日

 国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦