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指宿 菜の花 通信(No195) 田舎医者の流儀(170)・・・ゴミ掃除

部屋が綺麗であるためにはごみを出さない、出て来たごみを掃除することであろう。人の健康も病気を誘発する食事や生活習慣を避け、病気を起こさないようすること、生命活動に伴って出てくるゴミを排除することであろう。我々は動脈硬化の発生を避けるために、食事に気を付け脂質の多いものを避けてきた。体を動かす方が健康に良いと努力してきた。それはそれなりに成果を上げていることは疑いない。しかし、生命活動により発生する「ゴミ」が原因で発生する病気については対応が難しいままである。 「体の細胞はつねに新しいものに入れ替わり、古い死んだ細胞のゴミは生きているかぎり無尽蔵に生成される。外から来る敵の場合、普通は敵の数に限りがあるが、体の中から出るゴミは、生きているかぎり生成される。だから、慢性炎症という反応はエンドレスで終わりがない。アルツハイマー型認知症、腎臓病は「ゴミの蓄積」が病気の原因となるとされている。脳内では、少ないが一定の割合で、正常な形でない「アミロイドが」という夕ンパク質断片ができてしまう。それがうまく取り除かれず溜まってしまうと、脳の中にかたまり(「ブラークJと呼ぶ)が形成されていき、病気の原因となるのだ。そのため、極論すれば、溜まりゆくゴミの影響を受ける腎臓や脳などの組織は、死ぬまで機能が低下し続けることになる。 (猫が30歳まで生きる日 宮崎徹著)。 私たちの体の中には「貪食細胞」と呼ばれ、「不要な物を食べて体内を掃除する役目」の細胞が存在する。その代表がマクロファージで、100年以上前に、ロシアの科学者メチニコフ博士が、マクロファージが細菌を食べて体を感染から守るシステムを発見し、「食細胞機構」と名づけた。食細胞機構は生体が持つ外敵に対する防御機能の一つといえる。宮崎先生はそのマクロファージから出る「マクロファージの細胞死(アポトーシス)を抑制する分子」―「Apoptosis Inhibitor 0f Macrophage=AIMというたんぱく質を発見した。 研究の結果、AIMでマクロファージの機能を高めると、実験動物の急性・慢性腎障害を改善することが判ってきた。ネコは15年位しか生きないが、その死因は殆ど「腎不全」であるという。そこで、AIMをまずネコの腎不全を治療する「動物薬」として開発を始めた。一方、宮崎先生はお医者さんなので、現在、有効な治療法のない人の腎不全やアミロイド沈着によって起こるアルツハイマー型認知症への治療薬としてAIMの可能性も検討している。動脈硬化の治療薬としても期待が持てそうだという。医学者の間で、人の生命活動に伴って必然的に出てくるゴミ、それによって発生すると思われる病気、それの治療法への関心が高まっているといえる。 令和4年3月16日 国立病院機構指宿医療センター 総合内科 中 村 一 彦