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指宿 菜の花 通信(No201) 田舎医者の流儀(176)・・・貧幸

 理不尽なロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米、日本などはロシアからの石油・天然ガスの輸入禁止に踏み切った。エネルギーのロシア依存の大きい特に欧州は大きな困難に直面している。日本も石油禁輸は経済的には大きな影響を受ける状況にある。しかし、ロシアの理不尽な戦争を止めさせるためには避けられない「制裁」である。

 ガソリン代、電気料金は今後も上がっていくであろう。この中で我々のエネルギー消費のあり方を見直すチャンスではないか。今までどおりのじゃぶじゃぶのエネルギー消費ではやっていけない状況にある。供給が著しく制限されてきたので、当然その使用の制限にも本気で取り組む必要がある。この事態に至っても供給の確保のみを唱えても無理がある。これを期にエネルギー消費の抑制に向かう事が温暖化対策上も理にかなっている。

 我々一人ひとりがエネルギー消費削減に取り組みたい。不必要な電気は1分1秒でも消したい。私は家の中で不要と思える電気が付いていたら必ず消すようにしている。家人にそこは未だ使っているのとよく文句を言われる、今使っていなければ1秒でも1分でも消す。朝起きて、家人が消し忘れたトイレやクローゼットの電気が付けっぱなしだったといちいち指摘するものだから嫌われている。私は運転できないので、自家用車も持たない、移動はもっぱらバス、JR、歩ける距離は歩く、出来るだけタクシーに乗らない。どこに出かけるでもすぐ自家用車で、ガソリンの不要・不急の利用は避けたいものだ。

 最近の文藝春秋に作家の倉本聡さんが「老人よ、電気を消して『貧幸』に戻ろう」という一文を載せている。「我々老人には、ここ何十年地球を痛めつけ、ここまでの環境危機を招いてしまった。その犯人たる責任がある」と指摘し「使うエネルギーを減らすことを、真剣に模索することを提案している。

 倉本さんは「何年か前から僕はしばしば、ローソクの灯だけで風呂に入る」。「一寸した汚れを拭くのにも、鼻をかむにもティッシュぺーパーである。一度使ってすぐ捨てる。紙をこれだけ使い捨てるということは、その原料たる木材を使うこと、即ちC02を固定して酸素を出してくれる森の資源を、惜しげもなく毎日使い捨てているということである」。そこで「我が家では何年か前から卓上の汚れを拭う為に布巾を使うように生活を変えた。布巾は汚れたらすぐ洗う。又使う。テーブルの上にいつもハンディ夕イプの清潔な夕オルがきちんとたたまれ、積まれている。醬油をこぼした時、鼻水の出た時、殆んどこれで済ます。紙を決して浪費することはしない」と言う。

 また大きな浪費も指摘する。「JRは、今度は東京から大阪まで1時間で行けるリニア新幹線なるものを作るという。日本の国土を切り刻み、地中に穴を掘り、水路をこわし、1時間スピードが上ったといったって、ウサィン・ボルトじゃあるまいし、何がそんなに目出度いのだろう。1時間浮いたその時間で人間は何をしようというのだろう。判らない。」

 倉本さんは『「貧幸」という素敵な言葉がある。貧しいが倖せ。そういう意味の言葉である。僕は貧幸の時代を知る、今の世に遅れた人間である。だが今僕はあの貧幸の時代に、出来得るならば戻りたいと思っている』。  い い ね !!。

 

令和4年5月18日

国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦