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指宿 菜の花 通信(No220) 田舎医者の流儀(195)・・・2023年始まる

 23年新年おめでとうございます。今年の正月は寒かったけど好天に恵まれた。例年のごとく小山田の農園は毎朝、霜で真っ白に覆われた。農園には2つの池があり、一つは金魚がいる。もう一つの方にはメダカを飼ってある。金魚の方は寒くても元気に泳ぎ回っている、餌をやると旺盛に食べてくれる。メダカは池の底の方にいて動かない、餌をやっても食べることはない。まるで冬眠しているかの如くである。寒さが緩んで水温が上がると動き出すかなと見守っている。

 正月3ヶ日、それ以降も寒さが酷いので、作業をするのはおっくうで小屋に籠っていた。本読み中心の生活になった。「本読むんだったら自宅でも出来るじゃない、わざわざ出かけなくとも」と家人は言う、その通りである。しかし、一日中本読みが出来るわけがない、その合間にコーヒーを入れたり、庭に出て素振りをしたりする。それによって、本読みも進む、ずっと一日中本読みするほどの根気はこの年なって失せてしまった。騙し騙しでないと本読みも進まない、それなりのシチュエーション作りが必要になっている。

 正月まず「老害の人」内館牧子著を読んだ、話題になっている本だし読んでみようと思った。かねがね若い先生方と飯を食う機会が多い。決っして自慢話だけはすまいと気を付けている。しかし、私の主観的な思いとは別にそういう話をしているかもしれない。そんなところを勉強するつもりで読んだ。家人は「若先生方は迷惑だけど断り難くて、付き合っているのではないか」と心配している。それを自覚しながら、それでも彼らをリスペクトし、力を発揮して欲しいと願っている。

 同世代の友人と飲むと孫自慢と自分の過去自慢が始まる。これは年寄り同士であるので良しとしよう。自分達の生きている証みたいなものだから、聞いてあげようという気持ちだ。そういう意味では若者との付き合い方とは違ってくる。

 今話題の「パンとサーカス」島田雅彦著(講談社)という小説を読んだ。戦後一貫してアメリカに国益を売り渡してきた為政者に怒りをつのらせ、「世直し」を願う若者たちがテロ計画を実行に移すというエンタメ(娯楽)小説だ。その中の一節「独裁者も人である限り、必ず滅びる。世界は意外と簡単に変わる。氷が溶けて水になるように」に共感する。それにしてもまあ長い長い小説だった。

 1月14日外気温が20/17となった。池の水も温度が上がったのであろう、メダカが元気よく動き始めた。餌をやるとついばんでくれた。少々懸念していたが生きていた、良かった。

令和5年1月18日

国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦