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指宿 菜の花 通信(No237) 田舎医者の流儀(212)・・・またまた出合った初めての症例

 高血圧で治療中の67歳女性が最近頻尿・多尿で、そのため不眠だと訴える。血液検査では血中Naが低下しており、何らかの器質的疾患が疑われた。蓄尿して尿比重の測定などが必要と考え、精査のため入院となった。主治医はいろいろ調べて、結果を内分泌専門医にも相談し、「鉱質コルチコイド反応性低ナトリウム(Na)血症」という事になった。

 鉱質コルチコイド反応性低Na血症は,腎でのNa保持能の減退を基盤にして低Na血症を惹起する病態で、これと似た病態に抗利尿ホルモン不適合分泌症候群がある。これは特定の不適切な状況下での下垂体による抗利尿ホルモン(バソプレシン)の放出量が多すぎることで発生しこれにより体液が保持され、血中のナトリウムの濃度が希釈されて低下する。高齢者の低Na血症の診断において治療方針が異なるので両者の鑑別が重要である。

 医者になって50数年、総合内科を名乗って15年近く、またまた出合った初めての症例である。この患者さんはもともと訴えの多い方で自律神経症的病態を考えていた。しかし、訴えをよく聞くとそれと決めつけられないとも考えられた。低ナトリウム血症を足掛かりに検索を進め、バゾプレション値の測定などを行いこの疾患にたどり着いた。疑問点をしっかり追及した結果が良かったのかな。

 この半年で、初めて出会った症例があと2つあった。一つ目は血痰が出ると言って来院され、胸写を取ったがそれらしい病変は見当たらなかった。しかし、血痰の訴えであるので胸部CTは必要と考え施行した。思いもかけない事に甲状腺がんが気管に浸潤していた。それによる血痰が強く示唆された。大学の甲状腺外科に連絡し、早期の手術が予定された。血痰を軽視せずCT迄検査してよかったと思った。

 もう一例は高カルシウム、低リン血症があると紹介を受けた。当然、副甲状腺機能亢進症を考えた。過去にも腎透析中の患者さんでそのような病態は経験していたが、この患者さんの腎機能低下は極く軽度であった。内分泌代謝内科に紹介検索の結果、本態性副甲状腺機能亢進症で、画像診断で縦郭部に腫瘍が見つかり、手術となった。

 長年診療をやっていてもまだまだ私個人にとっては新しい疾患に遭遇する。疑問点を曖昧にせず追及することが大事であると思い知らされている。油断ならないよ。

令和5年8月30日

国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦