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指宿 菜の花 通信(No243) 田舎医者の流儀(218)・・・計画的陳腐化

 「1920年代のことだった。アメリカのゼネラル.エレクトリック社を中心とする電球メ―力―は力ルテルを組み、平均で約2500時間だった白熱電球の寿命を1000時間以下に短縮した。効果は抜群で、売上げと利益は急増した。今でもその伝統は引き継がれ、メーカーは冷蔵庫、洗濯機、電子レンジといった家電製品の平均寿命が7年以下と認めている。壊れるのは、システム全体が故障するからではなく、内蔵された小さな電気部品が壊れるからだ。それらは容易にかつ低コストで、長持ちするように設計できるはずだが、そうした部品の修理費用は法外に高くつき、機器全体を買い替えるのとそれほど変わらない。多くの場合、修理できないように設計されている」と言う。

 現在、わたしたちが毎日使っているハイテク機器についても同じことが言えるそうだ。ハイテク企業は2010年から2019年までに、130億台のスマートフォンを販売した。現在使用されているのは、そのうちの30億台ほどだ。つまり過去10年間で、100億台のスマト-フォンが廃棄されたことになる。加えてデスクトップ、タブレット、それに大量の電子機器が、計画的陳腐化の原則に沿って生産されている。

 家を作って10年位経った頃、新調した冷蔵庫、洗濯機などが次々故障して買い替えを余儀なくされた。「計画的陳腐化」が我々の生活に深く入り込んでいる。電化製品に限ったことではない。数回履いただけで破れるナイロン製のストッキング、家具などもそのように設計されているという。企業はそこまでして「儲け」を維持している、これでは資源がいくらあっても足りない。

 国連事務総長のグテーレス事務総長は、7月が人類史上最も暑い月となることを裏付ける公式データが発表されたことを受けて、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と強い危機感を表明した。しかし、世界各国の指導者たちの反応はにぶいものだった。温暖化に最も大きな責任を持つ先進国の指導者たちはこの問題に真剣に向き合おうとしていない。

 資源を浪費し、環境悪化の原因の一つになっている「計画的陳腐化」などと言う悪手を即刻辞めるべきだ。技術的には「アップグレードできて長持ちするデバイス」を作れないわけではなく、作れるはずなのだが、企業は儲けを優先し、その開発を抑制している。

 地球温暖化を抑制のために、今すぐにでも出来ることをやらなくては後世に豊かな地球を残すことは出来ない。強い危機感が必要だ。  (参考文献:資本主義の次に来る世界 ジョイソン・ヒッケル著)

令和5年11月22日

国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦