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指宿 菜の花通信(No.8)「今年も薄墨桜は咲かなかった」

鹿児島県立図書館の前庭に、平成2年岐阜県から寄贈された薄墨桜の木がある。期待しながら見に行くが、今年も咲かなかった。あるいはその地で育っていたら、可憐な花を咲かせていたかもしれない。我が家の庭に花みずきを植えているが、残念ながら、今年も白い花と葉っぱが半分位ずつだった。私の通勤路の花みずきはそれこそ木全体が白い花に覆われている。花が咲いてくれるにはそれなりの条件が必要なのだろう。

私が関係する部署にもこの4月、多くの新人が入ってきた。医師国家試験に合格した初期臨床研修医75名が県内の研修病院で医師としての人生をスタートさせた。この4年間、鹿児島県の初期臨床研修医は減り続けてきたが、昨年の54名に比し21名増となり、減少傾向に歯止めが掛かった。成長するために、良き先輩医師との出会いがあって欲しいと思う。当院にも新人看護師10名をはじめ、転勤を含めると29名もの人が新たに赴任してきた。赴任した皆さんが成長できる職場になりたいものだ。

高峰秀子さんという御年85歳の女優さんがいます。「高峰秀子の流儀」という本が出て、新聞の書評に「求めない、期待しない、驕らない、こだわらない・・・」高峰秀子の「生きよう」を書いているとの事であったので、読んでみる気になった。更に、彼女の事を知りたくなり、自伝的エッセイ「わたしの渡世日記」も読んでみた。彼女は小学校すら、まともに行っていない、字は映画の撮影に行く時、担任の先生が持ってきてくれた絵本で覚えたという。

彼女は30歳で既に大女優であったが、当時名もない助監督であった松山善三さんと結婚する。その時、足し算は出来たが引き算は出来ず、辞書を引く事を知らず、夫に教えてもらったのだという。その彼女の文章は研ぎ澄まされ、観察力、洞察力の深さに驚かされる。

新人の教育は管理者側としては可能な限り、十分なものを与えたい。最近の風潮としては教育体制が整っていることを望まれる、その通りかも知れない。しかし、十分な教育システムを作ったからといって、人が育つわけでもない。高峰秀子さんは世間的意味では十分な教育を受けていないにもかかわらず仕事も出来て、人としてのレベルも高い。どうしたら、そんな人が育つのか考えさせられる。

平成22年4月15日

 国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦