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指宿 菜の花通信(No.9)「奇跡のりんご」

りんご作り農家木村秋則さんの事を書いた「奇跡のリンゴ」という本がある。農薬なしには不可能と云われるリンゴ作りに有機肥料、農薬なしで挑戦し、成し遂げた木村さんの記録だ。今や木村さんの作るリンゴはなかなか手にはいらない、そのリンゴは噛むとパリンと音がしそうなほど、しっかりした歯ごたえ、強烈な甘みと酸味、樹の実と呼ぶのにふさわしい野生の味だそうだ。

木村さんは奥さんが農薬使用後に寝込んでしまう事が多く、なんとかならないものかと考えていた。たまたま自然農法を説く本を目にし、リンゴを農薬、肥料なしで作ろうと決心した。やってみると虫、病気の発生でリンゴは全く実らず、当然収入もなくなり、世間からは「かまどけし」と云われ、家族は貧乏にあえいだ。それでも、誰よりもリンゴの木を世話し、虫、病気から木を守るためあらゆることを試し続けた。しかし、リンゴは実らず、大事な木もだんだん弱っていった。

6年目にはどうにもならず、夏の夜、ロープを持って山に登っていく、ここら辺でとロープを木の枝に掛けたがロープが飛んでいった。それを探しに下の方に降りたら、なんと見事な葉を付けたリンゴの木(実際はどんぐりの木)があった。なんで、こんなところにこんな立派な木があるのかと観察を始めた。土が違うことに気づいた。「死のう」と思って来たことはすっかり忘れ、そのまま畑に帰り、自分の畑のリンゴの木は根が貧弱と気づく。それから土の改造、根っこからのリンゴの木の再生に取り組み始めた。

その翌年、リンゴの木一本が7個の花を咲かせた。実に無農薬に挑戦してから8年目のことであった。うち2個が実になった。家族皆で食べた。驚くほど美味しかった。9年目にはリンゴの花が一面に咲いた。しかし、リンゴ農家として売れる商品になるまでは苦労は続いた。しかし、今や、無農薬、肥料なしの木村さんのリンゴは自然と人との関わりまで考えさせる存在になっている。それにしても、農薬を使いさえすれば高収入が約束されているのに貧乏にあえぎながら、信念を貫く強さに感嘆させられる。その後も「リンゴの教えてくれたこと」を伝えに国内外を飛び回っている。

当院の平成21年度収支は残念ながら赤字で、独立行政法人になって6年赤字続きである。指宿病院が黒字化は無理だよと広言する人もいる。しかし、この病院はこの地域になくてはならない存在だ。木村さんに似た院長さんがめげずにがんばっている。結果はついてくると確信している。

平成22年5月21日

 国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦