ホーム » “ 人生の最期を自宅で迎えるために -事前指示書の運用-”

“ 人生の最期を自宅で迎えるために -事前指示書の運用-”

 悪性腫瘍や重症疾患の終末期の患者さんが延命治療を望まず、自宅で最期を迎えることを希望された場合でも、急変時にご家族が119番通報をすると救急隊は救命のための心肺蘇生を実施することになります。患者さんの意思が尊重される必要がある一方、通報を受けた救急隊は応急処置を実施せざる負えない状況にあり、平成29年、日本臨床救急医学会は、「心肺蘇生等を受けない」ことについて事前指示書等の書面がある場合、患者さんの意思が尊重される必要があり、地域に沿った対応が必要であると提言しています。しかし、事前指示書の運用に関して指宿・南九州地区では未実施であり、鹿児島県内でも十分とは言えません。

 

 当院では指宿・南九州消防組合と院外心肺停止患者に関する事後検証会を定期的に行っていますが、事前指示書の運用に関しては平成30年から協議を行い、当院を退院した患者さんで本人が自発的な意思に基づき意思決定をした場合に限定し、令和5年4月から運用を開始することになりました。

 

 心肺蘇生中止に伴う責任問題が発生する可能性がある一方、逆に蘇生をしたことにより個人の尊厳を傷つけたとする問題の両面が想定されるため、医師、看護師、救急隊、有識者などで話し合いを繰り返し、医師会や消防組合とも連携し運用の開始に至りました。最も重要なことは患者本人のリビングウィル(人生の最終段階における意思表明)について時間をかけて多職種(医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、ケアマネージャーなど)で十分話し合い、内容を患者さんやご家族と共有することです。また、事前指示書があっても、ご家族が心肺蘇生を希望する場合には指示書の撤回を可能としました。

 

 高齢化社会を迎え救急医療の質を向上させる必要がある一方、個人の尊厳を重視し た医療も重要になっています。今後は指宿医師会と協働し介護・福祉施設などにも運 用を広げることを検討したいと思っています。

 

 

令和5年4月4日

 国立病院機構指宿医療センター 院長
 鹿 島 克 郎