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指宿 菜の花 通信(No222) 田舎医者の流儀(197)・・・ビタミンB₃を頂戴

 外来に通っている70代男性患者さんから「ビタミンB₃を頂戴。長生きのために良いとテレビで言っていた」と言われた。しかしB₃の薬剤はない、薬局方を見せながら説明した。

 確かに2016年、医学専門誌に表された今井眞一郎教授(ワシントン大学教授)らの研究で体内のビタミンB₃から作られるNMN (ニコチンアミド モノクレオチド)は抗老化作用を示すことが実証された。「体内でB₃を材料にNMNが合成され、さらにNADに変換される。そのNADは、老化や寿命を制御すると考えられる酵素サ一チュイン(7種類のうちSIRT1)を活性化する。サーチュインが働くためにはNADが不可欠だが、加齢により減少。NMNを補充することにより体内でNADに変換され、抗老化作用が期待される。」とした。

 NADは体内で500種あまりの酵素に利用されている。NADがなければ私たちは30秒と生きていられない。NMNは枝豆やブロッコリといった野菜や果物などに微量だが含まれているが、加齢により減る体内のNAD量を食品だけで補うのは難しい。だからこそ、体内でNADに変換されるNMNに注目が集まるのだ。

 NAD量は加齢とともに減少。50代では20代に比べて半減するとされている。NAD量の減少により、さまざまな臓器の機能が低下し、老化に関連する疾患を引き起こす。つまりNAD量を増やせば、老化関連疾患を予防できる可能性がある。ただ、NADをそのまま摂取しても腸内で分解されてしまうので、NADが体内で合成される前のNMNの摂取する必要がある。

 体内のNAD量が下がる理由は二つあり、一つはNADの合成量が下がること。合成するための酵素NAMPTの量が下がることが主な原因と考えられている。また慢性炎症によってもNADの合成量が下がるし、組織の障害によっても下がる。もう一つはNADの消費量の上昇。DNAに傷がついたりすると、その傷を修復しようとしてNADが消費される。また炎症を修復するのに重要な働きをしているマクロファージという細胞でも、加齢とともにNADを壊す酵素の量が上がってくる。このように、合成の低下と消費の上昇で、NADの量がどんどん下がる。

 ならば、NAD量を上げてやれば良い、そこでNADに変換されるNMNが注目されている。NMNはすでに、数多くの会社が製品を市場に出している。値段も安いものからとても高価なものまでいろいろある。今井先生によると「世界で動物とヒトの両方で安全性が検証されているNMNは現時点(2021年4月現在)で2種類しか存在しない、そしてその二つはいずれも日本製。高純度、高安定性のNMNを作るのは相当難しく、そういった品質のNMNは現時点ではかなり高価である。解析してみると、安い製品に使われているNMNには相当な数の不純物が入っていて、しかもその中には生体には存在しないような物質まで入っている場合がある。私は、高純度、高安定性で、動物でもヒトでも安全であることが検証されたNMNがより多くの人たちの手に入るような価格で提供されるようになることを望んでいる。」

 私が調べた範囲ではこのようなNMNは高価で一錠2000円、一か月、日に一錠服用しても約6万円かかる。それでもその効果を期待して例えばホリエモンさんは今井先生と対談のあと、その有用性を理解し、服用しているという。ある著名な老化研究学者は「私は医師として、二重盲検研究で証明されていないものは何も飲みたくなかったが、62歳になったとき、たとえすべての答えがまだ出ていなくても、安全だと信じられるものを食事に取り入れようと決心した」と述べてNMNを服用していると述べている。
(参考文献:開かれたパンドラの箱―老化・寿命研究の最前線― 今井眞一郎著 朝日新聞出版)

令和5年2月3日

国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦