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指宿 菜の花 通信(No227) 田舎医者の流儀(202)・・・WBC・ここに注目 ‼

 私にはWBCでの侍ジャパンの優勝はまるで映画か漫画のストーリーのようであった。最後は大谷選手が大リーグではやったことのないストッパーとして登場、大リーグ有数の強打者トラウトと対峙した。すごく早いストレートで空振りさせ、最後はベースの左端から右端迄曲がるスライダーで三振に仕留めた。あの球は誰が出てきても打てないのではなかろうかと素人目には思えた。

 驚かされたのは大谷の底知れぬ体力である。この試合大谷は打者として打席につき、走塁もこなし、最終回ストッパーで投げるために投球練習もしていた。ストッパーで出て来た大谷のユニホームは泥で汚れていた。そんな状態で出てきてなんでもなかったように役割を果たした。常識的には体力的には限界を超えていたはずである。しかし、そんなそぶりは見せなかった。こんな人並外れた体力はどこから出て来たのであろうか。彼のミトコンドリアは高性能で良質のATP(人のエネルギー源)を産生するのだろうか。天性のものもあるとは思うが、かねてのハードなトレーニングで形成されたものだろうか、素人の私には良く分からない。

 大谷は昨年末、二刀流で投手、打者としてもおおきな実績を残して帰国した。二年連続の最優秀選手にこそ選ばれなかったが、選ばれてもおかしくないぐらいの成績であった。大谷は帰国後その動静が殆ど伝わってこなかった。大谷ほどの選手であれば当然マスコミその他の関係者がほっとくはずがない。しかし、彼は年末・年始マスコミ等に一切顔出しせず、日本にいる間、ホテルとトレーニング場のみで過ごしたと言われている。アメリカに帰りキャンプに参加し、その後WBCチームに合流した。

 栗山監督が語る。『翔平をよく表しているエピソードは2016年の紅白歌合戦の審査員でオファーが来たときですね。広報から翔平に打診すると「収録の前後に練習会場をちゃんと確保してくれるなら出ます」と。翔平の中には「自分がやりたい練習」というのがある。それはすべて自分の中で決まっていて。邪魔することは許されないんですよ。「その練習場所と時間を収録の前後でちゃんと確保してくれるのであれば、いってもいいですよ」といったらしいです。当時からそれぐらい自分のやるべきことに妥協することはなかったですよね。 また、チームが優勝した前年(2015年)の12月25日のクリスマスに、夜中に翔平からLINEが来て「監督が一番喜ぶものです」と映像が送られてきた。それは翔平が「合宿所でバッティングフォーム変えるんだ」といって、ずっと打ち続けている動画だったんです。クリスマスも何も関係ない。自分のための練習に一番没頭できる時間だったんですよね、それぐらい野球への強い思いがないと、ピッチャーとバッターの二つなんてやり切れませんよ。』目標を明確に持ち、そのために必要な練習・体力作りを行える非妥協的能力に感嘆する。

 一流のプロ野球選手であればその練習量は半端なものではないと言われている。かつての王選手、金本選手らの練習量は伝説的ですらある。名手と言われた選手はいずれも信じられないぐらいの練習をこなしてきた。大谷選手は二刀流であるので、更にやらないといけない事が多いのだろう。こういう打撃・投球をしたい、それをやるには体をこう作り変えなければならないという明確な目標があり、テレビに出たりして、その時間を費消する暇はないのだろう。その訓練を最優先し持続する精神力に驚かされる。人並外れた「努力をする能力」に恵まれている事こそが彼の最大の才能かもしれない。大谷選手は「求道者」だ。

令和5年3月30日

国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦