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指宿 菜の花 通信(No239) 田舎医者の流儀(214)・・・コスモス 一輪挿し

 秋の訪れとともに農園のコスモスが咲き始めた。濃いピンク色の花弁が優雅である。家人にも見せようと、一輪の花を持って帰った。切り取って30分ぐらいしか経たないのに家に帰り着く頃には、花弁の一部が元気なく垂れ下がっていた。急いで花瓶に水を入れ、一輪挿しにした。翌朝、萎れた花弁は元気を取り戻し見事な花になった、回復力に感心した。

 茎で切り取ったコスモスは水分が補強されなかったために萎れたのだろう。一般の植物は、茎の中に導管という水道管のような通水専用の空洞組織を持っていて、根で吸い上げた水を大量に運搬している。切り花にした場合、根からの給水じゃなく、茎の導管から給水されることになる。針葉樹は古いタィプの植物なので、細胞の機能分担ができていない。そのかわりに細胞と細胞の間に小さな穴が空いていて、この穴を通して細胞から細胞へと順番に伝えていく仮導管という方法で水を運んでいるという。水を一気に通す管に比べると、仮導管は水を運ぶ効率が良いとはいえない。しかし、仮導管は凍結に強いという利点があるそうだ。

 この時期、キクやコスモスは花が咲く、しかしサクラは春に咲く。どうしてこんな違いがあるのだろうか。桜は秋に越冬芽をつくって花を咲かせない、「秋に咲くと、やがてやってくる冬の寒さのために、タネはつくられず、種族が滅びてしまうから」という。一方、秋に花を咲かせる植物もある。代表的なのは、キクやコスモスでなどで、夏から初秋にかけて、ツボミをつくり、秋に花を咲かせる。しかしキクやコスモスなどは、花を咲かせてタネをつくるまでの期間が短い。そのため、秋に花を咲かせても、冬の寒さがくるまでに、タネをつくり終え、子孫を残すことができる。一方、サクラが花を咲かせてタネをつくるのに、月日がかかる。秋に花を咲かせては、冬の寒さがくるまでにタネをつくり終えられない。タネができなければ、種族は滅びてしまう。だから、秋に花を咲かせないしくみを備えているという。

 農園を少し降りた道端に白い四つの花弁を持つ、つる性の草花が咲いている。仙人草と言う花らしい。この茎から出る汁は毒を含み、不用意に触るとかぶれると言う。そのままを眺めていると花株が多いので美しい。播磨(現在の兵庫県)の俳人、滝野瓢水が、遊女を身うけしようとした友人をいさめて「手に取るなやはり野に置け蓮華草」という句を詠んだといわれている。蓮華草は野に咲くから美しく見える、それを摘んできては蓮華の本来の美しさは失われてしまう。同じように、遊女は色町にいてこそ美しく見えると、滝野瓢水は詠んだ。

(参考文献:大事なことは植物が教えてくれる 稲垣栄洋著)

令和5年9月20日

国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦