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指宿 菜の花 通信(No240) 田舎医者の流儀(215)・・・がまんがまん

 10月になりやっと秋らしくなり、朝晩が大分涼しくなってきた。半袖シャツでは寒いので長袖を着始めた。夜明けも遅くなり、朝6時に家を出るときはまだ薄暗い。夕暮れも早くなり、農園からの帰りのバスを30分早めた。本屋さんに行ったら、来年の手帳やカレンダーが売り出されていた。そんな時期になった、この年になると時の移ろいを早いと感じる。

 アメリカのMLB ア・リーグで大谷翔平がついにホームラン王になった。あの松井選手ですら出来なかったことを二刀流の大谷がやり遂げた、すごい。日本人の体格では難しいと考えられていたことをいとも簡単(?)にやってしまった。理解を超えた節制と鍛錬の賜物であろう。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)食事会場では、おにぎりや唐揚げを見つめながらも、小さく「がまん」とつぶやいて離れていく大谷の姿が目撃されていた。私は糖尿病の患者さんにこの話をよくする、食事は「がまんがまん」で行きましょうと。この話結構受けているよ。

 今年のノーベル生理学・医学賞は新型コロナウイルスワクチン開発に大きく貢献したカタリン・カリコ博士らに決まった。カリコ博士はハンガリー出身、大学卒業後アメリカに渡り、遺伝物質の1つ「mRNA」の研究をしていた。しかし、その仕事は評価されず、研究費の獲得もままならず、在職した大学で役職が降格になったりするなど、40年にわたる研究生活は苦難の連続であったという。

 2005年には、当時同僚だったドリュー・ワイスマン教授と、今回のワクチンの開発につながる革新的な研究成果を発表したが、これも注目を集めることはなく、その後大学の研究室を借りる費用も賄えなくなり、2013年にドイツの企業ビオンテックに移った。今回のmRNAワクチン、かつては、実用化は困難というのが常識で、カリコさんも壁にぶつかった。人工的に作ったmRNAを細胞に加えると炎症反応が起き、細胞そのものが死んでしまうことがあったという。それでも、実験を繰り返し、mRNAの一部を別の物質に置き換えると炎症反応が抑えられることを発見。これまでの常識を打ち破った。

 ワクチンには生ワクチン、不活性化ワクチンなどがあるが、今回のコロナワクチンはmRNAワクチンという手法だ。mRNAワクチンを作るのにはウイルスそのものは必要ない(設計図であるmRNAだけあればよい)ので、培養するのに時間を要せず、従来のワクチンに比し短時間で大量生産できるメリットがある。世界的なパンデミックに対して迅速に対応できたという点で画期的な手法であったと言える。(菜の花通信169より再録)。カリコ博士のノーベル賞受賞を喜ぶ。

令和5年10月11日

国立病院機構指宿医療センター 総合内科
 中 村 一 彦